「最近、部下に覇気がなくてチームの雰囲気が悪い…これって『静かな退職』なの?」
「部下のやる気を引き出したいけど、どう接すればいいか分からず、結局何もできずにいる…」
部下の意欲低下を感じながらも、その根本原因が分からず、有効な手を打てずに悩んでいる管理職の方は少なくありません。
静かな退職とは、明確な退職の意思表示を伴わずに、従業員が契約上最低限の業務しかこなさなくなる状態を指します。
これは単なる「怠慢」とは異なり、エンゲージメントの低下が背景にあるため、表面的な叱咤激励では解決せず、むしろ状況を悪化させる可能性さえあります。
本記事では、以下のような課題を解決します:
・「静かな退職」がなぜ起こるのか、その具体的な原因を理解したい
・自分の自分の部下が「静かな退職」の状態にあるのか見極めるためのサインを知りたい
・部下の本音を引き出し、信頼関係を再構築するための具体的なコミュニケーション方法を学びたい
・良かれと思ってやった対策が逆効果になる「失敗例」を事前に把握しておきたい
・明日からすぐに実践できる、効果的なアクションプランを手に入れたい
この記事では上記のような課題を持っている方に向けて、静かな退職とは何か、その原因から具体的な対策までを詳しく解説します。「静かな退職」は、部下個人の問題ではなく、チームのあり方やマネジメントを見直す絶好の機会です。この記事を参考に、部下のやる気を引き出し、チーム全体の生産性を高めるための第一歩を踏み出しましょう。
静かな退職(Quiet Quitting)とは何か?

「静かな退職」という言葉を耳にする機会が増えましたが、その正確な意味を理解しているでしょうか。
この現象は、単なるトレンドワードではなく、現代の職場が抱える深刻な課題を映し出しています。まずは、静かな退職とは何か、その定義と背景を正しく理解することから始めましょう。
契約上求められる最低限の仕事だけをこなす働き方
静かな退職(Quiet Quitting)とは、従業員が正式に退職するのではなく、現在の職に留まりながらも「契約の範囲内でしか働かない」「仕事に必要以上の情熱や時間、労力を注がない」という働き方の姿勢を指す言葉です。
重要なのは、これを「サボり」や「怠慢」と同一視しないことです。彼らは与えられた職務はきちんと遂行します。
しかし、かつてのように自発的に残業したり、新しいプロジェクトに率先して手を挙げたり、会社のイベントに積極的に参加したりといった「役割以上の貢献」をしなくなります。これは、仕事へのエンゲージメント(熱意や貢献意欲)が著しく低下した結果として現れる行動なのです。
背景にあるZ世代の価値観の変化と働き方の多様化
「静かな退職」という言葉が世界的に広まったのは、2022年夏にTikTokの動画がきっかけでした。
この言葉は特に若い世代を中心に急速に広まりましたが、その背景には深刻な働き方の問題が潜んでいます。
従来の「会社への滅私奉公」を良しとする価値観は薄れ、特にZ世代を中心に「仕事は人生の一部であり、すべてではない」という考え方が浸透しています。プライベートの時間や心の健康を重視し、ワークライフバランスの取れた働き方を求める傾向が強まっているのです。
こうした価値観の変化が、「静かな退職」という働き方を選択する土壌となっています。
エンゲージメント率5%という日本の厳しい現実
この問題は、日本企業にとって特に深刻です。米ギャラップ社の最新調査「State of the Global Workplace 2024 Report」によると、2023年における日本の従業員エンゲージメント率(仕事への熱意や貢献意欲を持つ従業員の割合)は、わずか5%でした。
これは世界平均の23%を大幅に下回り、調査対象国の中で最低レベルという厳しい結果です。
同調査では、エンゲージしておらず「静かに退職」している従業員は世界で59%にのぼるとされています。エンゲージメントが極端に低い日本では、多くの企業で「静かな退職」が水面下で進行している可能性が非常に高いと言えるでしょう。
このエンゲージメントの低さは、全世界で8.8兆ドル(約1,300兆円)もの経済損失を生んでいると試算されており、決して軽視できない問題なのです。
なぜ部下は「静かな退職」を選んでしまうのか?考えられる5つの原因
部下が突然やる気を失ったように見えるのには、必ず理由があります。
その原因を理解しないまま対策を講じても、的外れな結果に終わってしまいます。ここでは、従業員が「静かな退職」を選んでしまう代表的な5つの原因を掘り下げていきましょう。
1. 努力が報われないと感じる評価の不公平感
「頑張って成果を出しても、上司に気に入られている同僚の方が評価される」「自分のプロセスや工夫を見てくれず、結果だけで判断される」。
このような評価に対する不公平感は、従業員のモチベーションを著しく低下させます。
努力が正当に認められず、報われないと感じたとき、従業員は「頑張るだけ無駄だ」と考え、必要以上の努力をすることをやめてしまいます。
2. 成長を実感できないキャリアパスの不透明性
「この会社にいても、スキルアップできる気がしない」「3年後、5年後の自分の姿が全く想像できない」。
従業員は、日々の業務を通じて自己成長を実感したいと願っています。しかし、キャリアパスが不明確で、将来の展望が見えない職場では、成長意欲を維持することは困難です。成長の機会が与えられず、閉塞感を抱えた結果、「ここでは頑張っても意味がない」と静かに心を閉ざしてしまうのです。
3. 会社への貢献意欲が湧かないエンゲージメントの低下
会社のビジョンや目標に共感できず、自分の仕事が「何のためになっているのか」という意義を見出せない状態も、エンゲージメント低下の大きな原因です。
ただ言われた作業をこなすだけの毎日では、仕事への情熱は湧きません。
「この仕事を通じて社会に貢献したい」「チームの目標達成に貢献したい」という気持ちが失われると、従業員は会社と自分の間に距離を感じ、最低限の役割を果たすだけの存在になってしまいます。
4. プライベートを犠牲にしたくないという価値観の変化
過度な業務負荷や常態化した残業、休日出勤など、プライベートを犠牲にしなければならない働き方は、現代の価値観とは相容れません。
「仕事のために生きるのではなく、生きるために仕事をする」という考え方が広まる中、ワークライフバランスを軽視する企業文化は、従業員の心身を疲弊させます。
心身の健康を守るための防衛反応として、「静かな退職」を選ぶケースも少なくありません。
5. マネージャーとの信頼関係が築けていない
結局のところ、多くの問題は上司であるマネージャーとの関係性に起因します。
「困ったことがあっても相談しにくい」「本音を話すと否定されそう」「自分のことを理解してくれていない」。
このような信頼関係の欠如は、従業員を孤独にし、エンゲージメントを著しく損ないます。心理的安全性が確保されていない環境では、部下は問題や不満を抱え込み、静かに会社から気持ちが離れていってしまうのです。
見過ごし厳禁!部下に見られる「静かな退職」の3つのサイン

「静かな退職」は、その名の通り静かに進行するため、気づきにくいのが特徴です。
しかし、注意深く観察すれば、その兆候は必ず現れます。部下の小さな変化を見逃さないために、ここでは代表的な3つのサインをご紹介します。
サイン1:会議で発言せず、新しい提案をしなくなる
以前は積極的に意見を述べていた部下が、会議で押し黙るようになったら注意が必要です。
自分の意見が通らない、言っても無駄だ、という諦めの気持ちが、発言意欲を奪っています。
新しいアイデアや業務改善の提案が全く出なくなった場合も、仕事への情熱や当事者意識が失われているサインと考えられます。
サイン2:与えられた業務以外の仕事を引き受けようとしない
「何か手伝えることはありますか?」といった自発的な申し出がなくなり、指示された業務を終えると定時でさっと帰ってしまう。
これは、契約の範囲内でしか働かないという「静かな退職」の典型的な行動です。
チームの他のメンバーが困っていても手を貸そうとしない、新しい役割や責任を引き受けることを避けるといった態度が見られたら、危険信号です。
サイン3:同僚との雑談が減り、コミュニケーションを避ける
以前はランチや休憩時間に同僚と談笑していたのに、最近は一人で過ごすことが多くなった。
業務以外のコミュニケーションを意図的に避けるようになるのも、組織への帰属意識が低下しているサインです。
職場の人間関係を維持することにエネルギーを使いたくない、という気持ちの表れかもしれません。チームから孤立していくような行動は、見過ごしてはならない重要な兆候です。
マネージャーが今日からできる「静かな退職」への5つの具体的な対策

部下に「静かな退職」のサインを見つけたら、見て見ぬふりをするのが最も危険です。
しかし、焦って行動するのも禁物。ここでは、管理職であるあなたが今日から実践できる、具体的で効果的な5つの対策をご紹介します。
1. まずは「1on1」で部下の本音と向き合う時間を作る
対策の第一歩は、何よりもまず「対話」です。業務の進捗確認ではなく、部下自身に焦点を当てた1on1ミーティングの時間を定期的に設けましょう。
大切なのは、マネージャーが話すのではなく、「聞く」ことに徹する姿勢です。「最近、仕事でやりがいを感じることは?」「何か困っていることや、もっとこうだったら良いのにと思うことはない?」など、オープンな質問で部下の本音を引き出すことを目指します。
【実践】1on1で部下の本音を引き出す質問リスト
形骸化した1on1にしないためには、質問の質が重要です。いきなり本質を突くのではなく、徐々に信頼関係を築きながら深い話ができるような質問を心がけましょう。
・現状把握の質問:「最近、仕事の調子はどう?」「業務量で負担に感じていることはない?」
・モチベーションに関する質問:「今の仕事で一番面白いと感じる部分はどこ?」「逆に、ちょっと退屈だと感じる作業はある?」
・キャリアに関する質問:「今後、どんなスキルを身につけていきたい?」「3年後、どんな仕事に挑戦していたい?」
・関係性に関する質問:「私(マネージャー)のサポートで、もっとこうしてほしい、ということはあるかな?」「チームの働き方で、改善したい点はある?」
これらの質問を投げかける際は、決して詰問口調にならず、純粋な興味とサポートしたいという気持ちを伝えることが成功の鍵です。
2. 仕事の目的と期待役割を具体的にすり合わせる
「この作業が、プロジェクト全体のどの部分に繋がり、お客様にどんな価値を提供しているのか」。
部下が自分の仕事の意義を見失っている場合、その目的を改めて共有することが有効です。さらに、「この仕事で、あなたには〇〇という強みを活かして、△△というレベルまで達成してくれることを期待している」と、具体的な期待役割を伝えましょう。
これにより、部下は自分の存在価値を再認識し、目標が明確になることでモチベーションを取り戻すきっかけになります。
3. 小さな成果やプロセスを認め、感謝を言葉で伝える
大きな成果だけでなく、日々の小さな努力や工夫を見逃さずに承認することが、部下の自己効力感を高めます。
「さっきの資料、すごく分かりやすかったよ。ありがとう」「難しい交渉、粘り強く頑張ってくれて助かった」。
このように、具体的に、そしてタイムリーに感謝や称賛の言葉を伝える習慣をつけましょう。
「認められている」という実感は、エンゲージメントの最も強力な栄養源です。
4. 部下の強みを活かした仕事を任せ、成長機会を提供する
誰にでも得意なこと、好きなことがあります。
部下の強みや興味関心をよく観察し、それを活かせるような仕事を意図的にアサインしてみましょう。
本人が「やってみたい」と思える仕事や、少し挑戦的なタスクを任せることで、仕事への当事者意識とやりがいを引き出すことができます。
これは、部下のキャリア形成を支援するというマネージャーの重要な役割でもあります。
5. ワークライフバランスを尊重し、無理な要求をしない
信頼関係の土台となるのが、部下のプライベートや健康への配慮です。無計画な業務の押し付けや、恒常的な長時間労働を強いることは絶対に避けましょう。
「この業務量で、無理なく進められそう?」「最近、ちゃんと休めてる?」といった声かけは、部下に安心感を与えます。
マネージャー自身がワークライフバランスを尊重する姿勢を示すことで、チーム全体に心理的安全性が生まれ、持続可能な働き方が可能になります。
【要注意】「静かな退職」対策でやりがちな失敗例
部下のために良かれと思って取った行動が、かえって状況を悪化させてしまうことがあります。
ここでは、管理職が陥りがちな3つの失敗例を紹介します。これらの罠を避け、効果的な対策を進めましょう。
失敗例1:「やる気の問題だ」と精神論で片付けてしまう
「最近やる気がないんじゃないか?」「もっと情熱を持て!」といった精神論での叱咤激励は、最もやってはいけない対応です。
「静かな退職」の背景には、評価制度や労働環境、人間関係といった構造的な問題があります。原因を部下個人の資質の問題だと決めつけてしまうと、部下は「この人には何も理解してもらえない」と心を完全に閉ざし、対話の機会すら失ってしまいます。
失敗例2:1on1がマネージャーの独演会や業務報告会になる
せっかく1on1の時間を設けても、マネージャーが一方的に持論を語ったり、業務の進捗確認だけで終わってしまったりしては意味がありません。
1on1の主役はあくまで部下です。マネージャーは「聞く」ことに8割のエネルギーを注ぐべきです。部下の話を途中で遮ったり、自分の価値観を押し付けたりするのではなく、共感的な姿勢で最後まで耳を傾けることが信頼関係構築の第一歩です。
失敗例3:他の従業員と安易に比較する
「同期の〇〇君は、もっと積極的に発言しているぞ」「他のメンバーは君より多くのタスクをこなしている」。
他者との比較は、相手のモチベーションを上げるどころか、プライドを傷つけ、強い反発心を生むだけです。評価やフィードバックは、あくまでその人自身の過去の行動や成果と比較して行う「絶対評価」が基本です。比較は、さらなるエンゲージメント低下を招く危険な行為だと認識しましょう。
静かな退職とは?まとめ

静かな退職とは、従業員が仕事への情熱を失い、契約上の最低限の役割しか果たさなくなる状態を指します。
その背景には、評価への不満、キャリアの閉塞感、そしてマネージャーとの信頼関係の欠如など、根深い原因が隠されています。
しかし、これは決して部下だけの問題ではありません。むしろ、チームの課題や自らのマネジメントスタイルを客観的に見つめ直すための、重要なシグナルと捉えることができます。
部下に見られるサインに気づき、その原因を理解し、そして何よりもまず勇気を出して対話の場を設けること。この記事で紹介した5つの対策は、特別なスキルがなくても今日から始められることばかりです。
完璧なプランは必要ありません。まずは部下の話を真摯に「聞く」ことから始めてみませんか。その一歩が、部下の心を再び動かし、信頼に満ちた強いチームを築くための、最も確実な道筋となるはずです。
本記事では、2024年4月から本格的に始まった「医師の働き方改革」について、その制度の要点から、医療現場が抱える根深い課題、そして具体的な対策までを解説しました。